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小1の途中で家族は横浜市内の古い2DKのマンションに引っ越します。母はエレベーター付きのマンションに住めると喜んでいました。このとき母は、これはS氏に体を売って実現したのだと僕に説明しました。母は幼い僕に何でも話す人でした。
ある日、母が小さなヨークシャテリアのメスの子犬を家に連れてきました。お客さんに買ってもらったというこの子犬は、その日から家族の一員となります。住んでいたマンションはペットが禁止されていましたが、母はお構いなしでした。
S氏がしばらく姿を現さなくなると、母は新たに20代前半のY氏を家に連れてきました。Y氏は母の勤める店のボーイで、甘いマスクと柔道で鍛えた筋骨隆々な体を持っていました。Y氏は母より10歳ほど若く、母はY氏を射止めるほど自分は魅力的なのだと僕によく自慢していました。Y氏は僕たちと一緒に暮らし始めました。Y氏の影響で僕は柔道を習い始めました。
ある日、母とY氏が嬉しそうに小さなマルチーズのオスの子犬を連れてきました。この子犬もその日から家族の一員となります。ペット禁止の2DKのマンションに家族4人と犬2匹。この暮らしは許されるものなのか、面倒は誰がみるのか、僕は子犬を素直には喜べませんでした。
小学校から帰って出勤支度をする母の後ろで流れるTVのニュースにふと目をやると、馴染みのある名前がTVから飛び出してきました。慌てて母と一緒に確認したのですが、名前と年齢に間違いはありませんでした。僕はTVのニュースで、実父が警察に逮捕されたことを知りました。
小学校では小4まで学級委員、小5、小6で放送委員をやりました。朝礼や学校行事では、マイクなど音響の準備をしたり、行進や競技中の音楽をかけたり、学校の記録としてビデオカメラを回したりしていました。僕の親は学校のイベントには滅多に来ません。親と一緒にお弁当を食べたりできない僕にとって、放送委員は都合の良い立場でした。
小学校の高学年の頃、飼っている犬は9匹に増えていました。はじめの2匹が子犬を産み、その子犬がまた子犬を産んだのです。狭いマンションで9匹の犬を飼うことは異常です。汚部屋で犬達の世話をしながら、僕もこの家庭で犬達と同じような境遇なのかもしれないと感じることもありました。
僕が中学生になっても、母は依然ホステスを続けていました。Y氏も仕事に出ていましたが家には帰らず、母がいない時間に家にやってくることが多くなりました。Y氏は家の金を持ち出して遊び続けていました。結果的にY氏は家から金目のもの一切を持っていなくなりました。僕が誕生日に買ってもらったファミコンのカセットも、僕の自転車さえも持っていきました。
しばらくして母は中年で独身のサラリーマンH氏を家に連れてきました。H氏と母は籍を入れる予定で、H氏が購入する家に皆で引っ越す話になっていました。しかしH氏の両親が母との結婚を猛反対し結婚は破談。その別れ話の最中、母は自身を刃物で傷付け救急車が出動する騒ぎになります。H氏は慰謝料を母に払うことで一応の決着が付きました。
後日、母は自身の傷と得られた慰謝料を武勇伝のように語っていました。慰謝料が入って母のお金遣いは荒くなりましたが、僕が欲しがっていたエレキギターも買ってくれました。そして姿を消したはずのY氏が突然また家にやってきて、お金を使い切るとまた消えていきました。