第04回:多様な学習のカタチ — 知識・スキル・態度を理解する

前回の記事では、効果的な学習目標を立てるための考え方について解説しました。今回は、学習の成果として現れるさまざまな「学習のカタチ」に焦点を当てていきましょう。私たちが学習を通じて身につけるものは、単なる知識だけではありません。技能(スキル)や態度もまた、重要な学習の成果なのです。

『Principles of Instructional Design』では、学習の成果を5つの主要なカテゴリーに分類して理解することが、効果的な教育デザインの基盤となると考えられています。これらのカテゴリーを理解することで、目的に合った教育を設計し、学習者が多様な能力をバランス良く習得できるようになります。

5つの学習成果のカテゴリーを一つずつ詳しく見ていきましょう。

1. 知的技能(Intellectual Skills)― 考える力を養う

知的技能とは、「何かに対しどのように実行するか」という手順や規則を理解し、適用する能力のことです。これは、単なる知識の記憶とは異なり、問題を解決したり、意思決定を行ったりするために不可欠な能力です。知的技能は、さらにいくつかの種類に分類できます。

  • 識別(Discrimination):複数の刺激の中から、特定の刺激を見分けたり、区別したりするスキルです。例えば、異なるフォントの文字を認識したり、似たような音の違いを聞き分けたりする能力がこれにあたります。教育においては、重要な情報とそうでない情報を見分ける、事実と意見を区別するなどが該当します。
  • 概念(Concrete Concept):具体的な物や事象を、共通の属性に基づいて分類するスキルです。例えば、「犬」という概念を、様々な犬種(チワワ、プードル、ゴールデンレトリバーなど)を見て理解する、あるいは「三角形」という図形を、様々な大きさや形の三角形から認識する能力です。
  • 定義(Defined Concept):言葉や記号を用いて定義された概念を理解し、適用するスキルです。例えば、「民主主義」という言葉の定義を理解し、具体的な例を挙げることができる、あるいは「比喩」という文学的な表現の定義を理解し、文脈の中で見つけることができる能力です。
  • 規則(Rule):二つ以上の概念を結びつけ、「もし〜ならば、〜である」という関係性を理解し、適用するスキルです。例えば、「物を落とすと下に落ちる」という物理法則を理解し、それを様々な状況で予測に活用する、あるいは「主語が三人称単数で現在形の場合、動詞に’s’をつける」という文法規則を理解し、正しい英文を作成する能力です。
  • 応用規則(Higher-Order Rule):複数のルールを組み合わせて、より複雑な問題を解決するスキルです。これは、問題解決能力そのものであり、与えられた情報を分析し、適切なルールを選択・適用して解決策を見出す能力を指します。数学の問題を解いたり、プログラミングを行ったりするなどが該当します。

これらの知的技能を効果的に学習するためには、段階的な学習が重要です。より単純なスキルを習得してから、より複雑なスキルへと進むことで、学習者は無理なく理解を深めることができます。また、具体的な例を通して概念やルールを理解し、練習問題に取り組むことで、知識を実際に適用する力を養うことが大切です。フィードバックによって、自分の理解度やスキルの習熟度を確認することも、効果的な学習には不可欠です。

2. 認知戦略(Cognitive Strategies)― 学び方を学ぶ

認知戦略とは、学習者自身が自分の学習プロセスを制御し、改善するために用いる内的な能力のことです。これは、「何を学ぶか」だけでなく、「どのように学ぶか」という、より高度な学習能力です。

  • 記憶術(Mnemonic)の利用:情報を覚えやすくするための工夫(語呂合わせなど)。
  • 構造化:学習内容を整理し、関連性を理解するためのアウトライン作成や図解。
  • メタ認知:自分の学習状況を客観的に把握し、必要に応じて学習方法を調整する能力。
  • 問題解決戦略:問題を分析し、解決策を見つけるための計画や手順の適用。

認知戦略を効果的に習得するためには、戦略そのものを明示的に教えることが重要です。例えば、ノートの取り方、要約の仕方、効果的な復習方法などを具体的に指導します。また、様々な学習場面で認知戦略を実践する機会を提供し、その効果を実感させることも大切です。学習者は、成功体験を通じて、自分に合った学習方法を見つけ、それを応用できるようになります。

3. 事実情報(Verbal Information)― 知識を蓄える

事実情報とは、「何を知っているか」という事実や知識のことであり、言葉や記号によって伝えられる情報です。これは、私たちが教科書や講義、会話などを通じて学ぶ、基本的な知識や事実、概念の定義などを含みます。

  • 事実の記憶:歴史的な出来事、科学的な法則、地理的な情報など、具体的な事実を覚えること。
  • 概念の理解:特定の言葉や記号が表す意味を理解すること。
  • 知識の組織化:関連する情報を結びつけ、体系的に理解すること。

事実情報を効果的に学習するためには、情報を整理し、分かりやすく提示することが重要です。視覚的な補助(図やグラフなど)を活用したり、関連する既存の知識と結びつけたりすることで、学習者の理解を助けることができます。また、反復や想起を促す活動を取り入れることで、記憶の定着を図ることが大切です。

4. 運動技能(Motor Skills)― 体を動かす技能を磨く

運動技能とは、「どのように体を動かすか」という、筋肉の協調的な動きによって実現される技能のことです。スポーツの技能、楽器の演奏、手先の器用さを必要とする作業などがこれに該当します。

  • 基本的な動作:歩く、走る、掴むなど。
  • 複雑な技能:自転車に乗る、ボールを投げる、ピアノを弾くなど。

運動技能を効果的に学習するためには、デモンストレーション(実演)全体練習を組み合わせることで、効率的に技能を習得することができます。

5. 姿勢(Attitudes)― 心の持ち方を育む

姿勢とは、人、物、事象に対して抱く感情的な傾向や、行動の選択に影響を与える内的な構えのことです。学習に対する意欲、他人への尊重、倫理観などがこれに含まれます。姿勢は、直接的に教えることが難しい側面もありますが、教育を通じて間接的に影響を与えることができます。

  • 価値観:何が重要であるかという信念。
  • 興味・関心:特定の対象に対する好奇心や好意。
  • 学習意欲:自ら進んで学習に取り組む姿勢。

姿勢を形成するためには、望ましい行動や価値観を示すモデル(模範)を提示することが有効です。また、成功体験を通して自信を育んだり、共感的な理解を促すような活動を取り入れたりすることも重要です。学習環境全体を通して、望ましい姿勢が醸成されるような配慮が必要です。

まとめ

今回は、学習の成果として現れる5つの主要なカテゴリー、知的技能、認知戦略、事実情報、運動技能、姿勢について解説しました。効果的な教育デザインを行うためには、それぞれの学習成果の特性を理解し、適切な学習方法や指導方法を選択することが重要です。

教育の目標を考える際には、これらの5つのカテゴリーを意識し、バランスの取れた学習が実現できるよう設計していくことが、学習者の多様な能力を育成する鍵となります

次回の記事では、今回ご紹介した学習の成果を、具体的な教育場面でどのように分析し、教育設計に活かしていくのかについて解説していきます。

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