第01回:より良い学びを創るための第一歩

本連載講座では、教育デザイン(インストラクショナルデザイン、IDとも呼ばれます) という考え方を通して、より効果的な学びを実現するための方法を、全10回にわたって解説していきます。第01回となる今回は、教育デザインの世界への入り口として、その基本的な考え方や重要性について、専門用語を避けて分かりやすくご紹介します。

教育デザインとは何か?

私たちは日常生活の中で、様々なことを学び、身につけています。例えば、新しい料理のレシピを覚えたり、スマートフォンの新しい機能を使いこなせるようになったり、仕事で必要なスキルを習得したりと、その内容は多岐にわたります。このような「学び」を意図的に、そして効果的に起こすための計画が、教育デザインの基本的な考え方です。

もう少し詳しく説明しましょう。もしあなたが誰かに何かを教えたいと考えたとき、ただ一方的に話すだけでは、相手が本当に理解し、身につけられるとは限りません。そこで、

  • 何を学んでほしいのか(目標設定)
  • どのような順序で教えれば理解しやすいのか(構成)
  • どのような方法や道具(メディア)を使えば効果的なのか(教材選定)
  • どのように学んだ成果を確認するのか(評価)

といったことを事前に考え、計画を立てるはずです。この体系的な計画こそが、教育デザインの核心なのです。

『Principles of Instructional Design』の著者であるロバート・M・ガニェ、レスリー・J・ブリッグス、ウォルター・W・ウェイガーは、教育デザインを「学習を支援する目的で計画された人間の営み」であり、「個々の学習者の学習を活性化し、支援すること」を目的とするものと述べています。つまり、教育デザインは、教える側が一方的に知識を伝達するのではなく、学習者一人ひとりの学びを最大限に引き出すための緻密な設計なのです。

なぜ教育デザインが重要なのか?

私たちが生きる社会は常に変化しており、求められる知識やスキルも高度化・多様化しています。そのため、効率的かつ効果的に学習を進めることが、個人にとっても社会全体にとっても非常に重要になっています。

教育デザインは、このような現代社会のニーズに応えるための強力な手段となります。なぜなら、教育デザインに基づいて計画されたインストラクションは、場当たり的な教え方と比較して、以下のような利点があると考えられるからです:

  • 学習目標が明確になる:何を学ぶべきかがはっきりするため、学習者は目標に向かって集中して取り組むことができます。
  • 学習内容が体系化される:知識やスキルが論理的な順序で構成されるため、学習者は無理なく段階的に理解を深めることができます。
  • 最適な学習方法が選択される:学習目標や学習者の特性に合わせて、適切な教材や活動が選ばれるため、学習効果が高まります。
  • 学習成果が客観的に評価できる:明確な目標に基づいた評価方法が用いられるため、学習者は自身の成長を実感し、教える側は instruction の改善に繋げることができます。

『Principles of Instructional Design』では、効果的なインストラクションは計画的である必要があり、個々の学生の学習を活性化し、支援することを目的としていると強調されています。これは、教育デザインが、学習者の視点に立ち、より良い学びの体験を創り出すための重要な考え方であることを示唆しています。

教育デザインの基本的な考え方

教育デザインは、単なる思いつきや経験則ではなく、人間の学習に関する科学的な研究や理論に基づいています。例えば、

  • 人はどのように情報を記憶し、理解するのか?
  • どのような条件が整えば、学習は効果的に進むのか?
  • 学習者の特性(得意なこと、苦手なこと、興味など)は、学習にどのように影響するのか?

といった問いに対する研究成果が、教育デザインの基盤となっているのです。

『Principles of Instructional Design』では、教育デザインは個々の学習者の学習を支援することを第一の目的とし, 学習が起こる条件を十分に考慮する必要があると述べられています。これには、学習者自身の内的な条件だけでなく、インストラクションを構成する外的条件も含まれます。

また、教育デザインは段階的なプロセスを経て行われます。一般的なモデルでは、ニーズ分析から始まり、目標設定、教材開発、インストラクションの実施、そして評価へと進みます。それぞれの段階で、経験的な証拠に基づいた意思決定を行うことが重要視されます。

学習効果を高めるための全体像

教育デザインは、特定のテクニックや手法だけを指すのではありません。それは、学習という現象を深く理解し、その理解に基づいて、より効果的な学びの環境を総合的にデザインするというアプローチです。

『Principles of Instructional Design』では、学習の成果は知的スキル、認知戦略、言語情報、態度、運動スキルという5つの主要なカテゴリーに分類できるとされています。そして、それぞれのカテゴリーの学習には、異なる条件が必要となることが示唆されています。

今後の連載では、これらの学習成果の種類(第04回)や、それぞれの学習を効果的に進めるための指導の順序(第06回)、インストラクションの具体的なイベント(第07回)、メディアの選択 (第08回)、レッスンプランの作成(第09回)、そして学習評価(第10回)について、詳しく解説していきます。

おわりに

今回の記事では、教育デザインの入門として、その基本的な考え方と重要性について解説しました。教育デザインは、より良い学びを実現するための強力な羅針盤となるでしょう。『Principles of Instructional Design』を参考に、今後の連載を通して、教育デザインの奥深い世界を一緒に探求していきましょう。

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