今回も前回に続き「PMBOK ガイド」の重要な要素である「8つのプロジェクトパフォーマンスドメイン1」を掘り下げていきます。今回は、8つのパフォーマンスドメインの中から、「デリバリー」と「測定」という、プロジェクトの成果を実際に届け、その成果を評価するための二つの重要な領域に焦点を当てて、詳しく解説していきます。
デリバリー
「デリバリー・パフォーマンスドメイン」は、プロジェクトの目的である成果物(製品、サービス、または結果)を作成し、ステークホルダーのニーズを満たすことに焦点を当てた領域です。単に何かを作り出すだけでなく、それが当初の計画や期待に沿ったものであり、最終的に価値を生み出すことが重要となります。
このパフォーマンスドメインでは、以下のような活動が重視されます。
- 要求事項の明確化:プロジェクトの成果物が満たすべき要求事項を明確に定義し、関係者間で共通の理解を得ることが出発点です。これは、プロジェクトの「スコープ定義」 とも深く関連します。どのような製品やサービスを提供し、どのような結果を生み出すのかを具体的に定めることが重要です。
- 成果物の作成:定義された要求事項に基づいて、プロジェクトチームが協力して成果物を作り上げていきます。この過程では、様々な「開発アプローチ」(予測型、ハイブリッド型、適応型など) が選択され、プロジェクトの特性や状況に合わせて適用されます。
- 品質の確保:作成された成果物が、事前に定められた品質基準を満たしていることを確認します。品質は、単に不具合がないというだけでなく、顧客や利用者の期待に応える性能や機能を持っているかどうかも含みます。
- ステークホルダーへの引き渡しと承認:完成した成果物を関係するステークホルダーに引き渡し、彼らがその成果物を承認することによって、デリバリーが完了します。この際、「受け入れ基準」 が満たされているかどうかが重要な判断基準となります。
- 価値の実現:プロジェクトの最終的な目標は、成果物を生み出すことだけでなく、それによって組織やステークホルダーに価値を提供することです。デリバリー・パフォーマンスドメインでは、この価値が実現されるまでのプロセスも考慮に入れます。
ここで特に重要なのは、「プロジェクトマネジメント標準」の原則の一つである「価値に焦点を当てる」 が、このデリバリー・パフォーマンスドメインの活動全体を強く導いているという点です。プロジェクトチームは常に、自分たちが作り出している成果物が、最終的にどのような価値を生み出すのかを意識しながら活動する必要があります。
デリバリーの成果を確認する方法としては、ステークホルダーの合意、プロジェクト目標の達成、受益者の満足度などが挙げられます。
測定
「測定パフォーマンスドメイン」は、プロジェクトのパフォーマンスを追跡、評価、そして関係者に報告することに焦点を当てた領域です。プロジェクトが計画通りに進んでいるのか、遅延や問題が発生していないかなどを客観的に把握し、必要に応じて軌道修正を行うために不可欠です。
このパフォーマンスドメインでは、以下のような活動が重視されます。
- 効果的な測定基準の設定:プロジェクトの進捗や成果を適切に評価するための「キーパフォーマンス指標(KPI)」 などの測定基準を設定します。これらの基準は、プロジェクトの目標や特性に合わせて慎重に選定される必要があります。
- データの収集と分析:設定された測定基準に基づいて、プロジェクトのパフォーマンスに関するデータを定期的に収集し、分析します。これには、スケジュール、コスト、スコープ、品質など、様々な側面からの情報が含まれます。
- 情報の共有:分析されたパフォーマンス情報を、適切なタイミングで、適切な形式で、関係するステークホルダーに報告します。報告の方法としては、進捗レポート、ダッシュボード, インフォメーションラジエーター など、様々なものが用いられます。
- パフォーマンスの評価と対応:収集・分析・報告された情報に基づいて、プロジェクトのパフォーマンスを評価し、必要に応じて是正措置や予防措置を講じます。パフォーマンスの悪化が見られる場合は、その原因を特定し、適切な対応策を実行することで、プロジェクトを目標達成に向けて再び軌道に乗せることが重要です。
- 成長と改善:測定されたパフォーマンスの履歴を分析し、プロジェクトマネジメントの方法やプロセスを継続的に改善していくことも、このパフォーマンスドメインの重要な側面です。
測定パフォーマンスドメインもまた、「価値に焦点を当てる」という原則と深く関連しています。単にスケジュールやコストの状況を把握するだけでなく、プロジェクトが最終的に価値を提供できる見込みがあるのかどうかを評価することも、重要な目的の一つです。
測定の結果を確認する方法としては、計画されたパフォーマンスに対する実績の比較、目標値の達成度合いの確認などが挙げられます。
デリバリーと測定の相互関係
デリバリー・パフォーマンスドメインと測定パフォーマンスドメインは、プロジェクトの価値実現に向けて密接に連携しています。
- デリバリー活動によって生み出された成果物は、測定によってその品質や性能、そして価値が評価されます。
- 測定の結果は、デリバリー活動の改善点や修正の必要性を示唆し、より良い成果物の作成へと繋がります。
- 両方のパフォーマンスドメインが効果的に機能することで、プロジェクトはステークホルダーのニーズを満たす価値ある成果物を届け、その価値を最大化することができるのです。
プロジェクトマネジメント標準の原則との関連性
今回の二つのパフォーマンスドメインは、特に以下の「プロジェクトマネジメント標準」の原則と深く関連しています。
- 価値に焦点を当てる: プロジェクトのあらゆる側面において、価値の創造と提供を最優先に考えることの重要性を示しています。デリバリーと測定の両パフォーマンスドメインは、この原則を具体的に実践するための活動と言えます。
- 品質をプロセスと成果物に取り込む: 高品質な成果物を生み出すためのプロセスと活動を重視する原則です。デリバリー・パフォーマンスドメインにおける品質確保の活動は、この原則を体現するものです。
これらの原則を意識することで、プロジェクトチームは、単に作業を進めるだけでなく、真に価値のある成果を生み出し、それを客観的に評価し、改善に繋げていくことができるようになります。
まとめ
今回は、PMBOKガイド第7版の「8つのプロジェクトパフォーマンスドメイン」の中から、「デリバリー」と「測定」に焦点を当てて解説しました。
- デリバリー・パフォーマンスドメインは、プロジェクトの成果物を生み出し、価値を届けるための活動です。
- 測定パフォーマンスドメインは、プロジェクトのパフォーマンスを評価し、改善に繋げるための活動です。
これら二つのパフォーマンスドメインを理解し、適切に実践することで、プロジェクトは目標を達成し、ステークホルダーに価値を提供することができるようになります。
次回の記事では、残りのパフォーマンスドメインについて、さらに詳しく解説していきますので、ぜひご期待ください。