第10回:『PMBOK®ガイド 第7版』をビジネスで活かす

全9回にわたり、『PMBOK®ガイド 第7版』の「PMBOK ガイド」と、それを支える「プロジェクトマネジメント標準」について、その基礎から最新の変革までを解説してきました。

最終回となる今回は、これまでの学びを振り返りながら、これらの知識を実際のビジネスの現場でどのように活かし、プロジェクトを成功に導くことができるのかを、具体的に掘り下げていきましょう。

改めてその重要性を理解する

『PMBOK®ガイド 第7版』は、近年のビジネス環境の急速な変化、すなわち新技術の登場、新しいアプローチの普及、そして市場の目まぐるしい変動に対応するために進化してきました。各業界、各組織、そして個々のプロジェクトが直面する固有の課題に対し、プロジェクトチームが柔軟に適応し、成果を出すことが求められています。

第7版は、「PMBOK ガイド」(A Guide to the Project Management Body of Knowledge)と「プロジェクトマネジメント標準」(The Standard for Project Management)の二つを統合した構成を持ち、12のプロジェクトマネジメント原則と8つのプロジェクトパフォーマンスドメインという二つの主要な概念を提示しています。

12のプロジェクトマネジメント原則は、「プロジェクトマネジメント標準」の中核をなし、プロジェクトに関わるすべての人々の行動と意思決定を導く根本的な規範、真実、価値観です。

8つのプロジェクトパフォーマンスドメインは、「PMBOK ガイド」で詳しく解説され、プロジェクトの成果を効果的に実現するために重要な、相互に関連し合う活動のグループです。これらのドメインは、原則によって導かれる行動が具体的に発揮される舞台となります。

ビジネス現場での具体的な活用

それでは、これらの原則とパフォーマンスドメインが、実際のビジネスの現場でどのように連携し、プロジェクトの成功に貢献するのかを見ていきましょう。

1. プロジェクト成功率の向上

  • 原則の指針:例えば「価値に焦点を当てる」という原則は、プロジェクトのあらゆる活動において、最終的にどのような価値をステークホルダーにもたらすのかを常に意識することを求めます。
  • パフォーマンスドメインの実践:これは「デリバリー」パフォーマンスドメインにおいて、プロジェクトの成果物だけでなく、それがもたらすビジネス目標への貢献や戦略の推進を重視する姿勢につながります。また、「測定」パフォーマンスドメインでは、単に成果物の完成度だけでなく、計画された便益が実際に実現されているかといった価値に基づいた測定を行うことが重要になります。

2. ステークホルダーとのより良い連携

  • 原則の指針:「ステークホルダーと適切に関わる」という原則は、プロジェクトの成功には、プロジェクトに影響を与えたり、影響を受けたりするすべての人々(ステークホルダー)との積極的かつ適切な関与が不可欠であることを示しています。
  • パフォーマンスドメインの実践:「ステークホルダー」パフォーマンスドメインでは、ステークホルダーの特定、分析、エンゲージメント戦略の策定、そしてその関係性の維持とモニタリングが具体的な活動となります。生産的な協力関係を築き、プロジェクトの目的への合意を得ることが、プロジェクトを円滑に進める上で不可欠です。

3. 変化への柔軟な対応

  • 原則の指針:現代のビジネス環境においては、予期せぬ変化が常に起こりえます。「適応性と回復力を持つ」という原則は、このような変化に対して柔軟に対応し、回復力を高めることの重要性を強調します。また「状況に応じてテーラリングする」という原則は、プロジェクトの特性や環境に合わせて、プロジェクトマネジメントのアプローチ、ガバナンス、プロセスを意図的に適合させることを推奨しています。
  • パフォーマンスドメインの実践:「開発アプローチとライフサイクル」パフォーマンスドメインでは、プロジェクトのスコープの安定性や変更の容易さなどを考慮して、予測型、適応型、ハイブリッド型といった適切な開発アプローチを選択し、柔軟なライフサイクルを設計することが求められます。また「不確実性」パフォーマンスドメインでは、リスクや機会を積極的に特定、評価、対応することで、不確実性による負の影響を最小限に抑え、正の影響を最大限に活用する能力が重要になります。「PMBOKガイド」のテーラリングに関する記述は、「プロジェクトマネジメント標準」の原則を具体的に実践するための手引きとなります。

4. 価値の創出

  • 原則の指針:すでに触れた「価値に焦点を当てる」という原則は、プロジェクトの究極的な目的が組織とそのステークホルダーに価値を届けることであることを明確に示しています。
  • パフォーマンスドメインの実践:プロジェクトの初期段階から、期待される成果、便益、価値を明確に定義し、「計画」パフォーマンスドメインにおいて、これらを達成するためのロードマップを描きます。そして、「デリバリー」パフォーマンスドメインを通じて、定義された価値を効果的に届け、「測定」パフォーマンスドメインでその価値が実際に創出されているかを評価することが、プロジェクトの成功を測る重要な指標となります。

実践へのアドバイス

今後のプロジェクトマネジメントの実践においては、「プロジェクトマネジメント標準」で示される12の原則を常に念頭に置き、自身の行動と意思決定の指針としてください。これらの原則は、プロジェクトを取り巻く様々な状況において、普遍的に適用できる基本的な考え方です。

そして、「PMBOK ガイド」は、これらの原則を具体的にどのように実践に移していくかの知識と手法の宝庫です。8つのパフォーマンスドメインで解説される具体的な活動、モデル、方法、そして成果物は、プロジェクトの特性や状況に合わせて柔軟に選択し、適用(テーラリング)することができます。

さらなる学習のために:PMIstandards+™ の活用

『PMBOK®ガイド 第7版』は、PMIstandards+™というインタラクティブなデジタルコンテンツプラットフォームと統合されています。このプラットフォームは、最新の、そして将来のプラクティス、方法、成果物など、プロジェクトマネジメントに関するより豊かで幅広い情報とリソースを提供します。PMIstandards+™を活用することで、『PMBOK®ガイド 第7版』の内容をさらに深く理解し、実際の業務での応用を効果的に進めることができるでしょう。

変化の時代を乗り越え、価値創造を実現するために

全10回にわたるこの連載を通じて、『PMBOK®ガイド 第7版』の基本的な内容とその重要性について学んできました。プロジェクトマネジメントは、変化し続ける現代社会において、新しい価値を生み出し、目標を達成するための強力な武器となります。

もしあなたが、

  • 新しいプロジェクトを成功させたい
  • チームを効果的に率いたい
  • 変化に強い組織を作りたい

そう考えているなら、ぜひこの連載で学んだ知識を土台として、『PMBOK®ガイド 第7版』を活用し、プロジェクトマネジメントの世界への第一歩を踏み出してみてください。

あなたの挑戦が、素晴らしい成果につながることを心から願っています。

関連記事