第04回:「プロジェクトマネジメント標準」としての12の原則

前回までで、現代のビジネス環境におけるプロジェクトマネジメントの重要性、PMBOKガイドとプロジェクトマネジメント標準の進化、そして第7版におけるプロセスベースから原則ベースへの大きな変化について確認しました。

今回は『PMBOKガイド 第7版』の中核をなす「12のプロジェクトマネジメント原則」について掘り下げていくことにしましょう。「プロジェクトマネジメント標準」が掲げるこの原則は、「PMBOK ガイド」全体を通じて、プロジェクトに関わる全ての人々の行動と意思決定を支える規範となるものです。

01. 勤勉、敬意、配慮を持ったスチュワードとなる

端的には「スチュワードシップを持つ」ということ。ここでいうスチュワードシップとは、プロジェクトとその関連資産を責任感を持って管理することを意味します。これには、倫理的に行動し、説明責任を果たし、透明性を保つことが含まれます。プロジェクトマネージャーやチームメンバーは、プロジェクトの成功のために、誠実かつ慎重に職務を遂行する責任があります。また、利害関係者のニーズを理解し、尊重し、配慮する姿勢が求められます。

例:プロジェクトの予算や資源を無駄遣いせず、最大限に活用する方法を常に考え、実行することは、勤勉なスチュワードシップの実践です。また、チームメンバーやステークホルダーの意見に耳を傾け、建設的な対話を行うことは、敬意と配慮を示す行為と言えるでしょう。

02. 協調的なプロジェクトチーム環境を構築する

プロジェクトの成功には、協力し合い、信頼し合えるチーム環境が不可欠です。チームメンバーがお互いを尊重し、心理的に安全な環境で意見を自由に交換できることが重要です。リーダーシップは、この協調的な環境を育む上で重要な役割を果たします。

例:定期的なチームミーティングで、各メンバーが進捗状況や課題を共有し、互いに助け合う文化を醸成することは、協調的なチーム環境を作る上で効果的です。また、異なる専門性を持つメンバーがお互いの知識やスキルを尊重し、学び合う姿勢も重要です。

03. ステークホルダーと適切に関わる

ステークホルダーとは、プロジェクトの意思決定、活動、成果によって影響を受ける可能性のある個人、グループ、または組織のことです。彼らと積極的にコミュニケーションを取り、ニーズや期待を理解し、プロジェクトの目標達成に向けて協力関係を築くことが重要です。

例:プロジェクトの開始時に関係するステークホルダーを特定し、それぞれの関心事項や影響力を分析します。その上で、定期的な報告会や個別ミーティングを通じて情報を共有し、フィードバックを得ることは、効果的なステークホルダーエンゲージメントの実践です。

04. 価値に焦点を当てる

プロジェクトは、最終的に価値を創造するために実施されます。ここでいう価値とは、単に成果物を完成させるだけでなく、組織やステークホルダーにとっての便益や有用性を含む、より広範な概念です。プロジェクトの全過程を通じて、この価値の実現を常に意識することが重要です。

例:プロジェクトの計画段階で、どのような価値を誰にもたらすのかを明確にし、その価値を測定するための指標を設定します。プロジェクトの進行中も、当初の価値目標が達成されているかを確認し、必要に応じて計画を修正することが、価値に焦点を当てるということです。

05. システムの相互作用を認識、評価、対応する

プロジェクトは、それ自体が一つのシステムであり、同時に、より大きな組織や社会のシステムの一部でもあります。プロジェクトの活動や成果は、これらのシステムと相互に影響し合います。したがって、プロジェクトチームは、全体像を理解する「システム思考」を持ち、内外のシステム間の相互作用を認識し、適切に対応する必要があります。

例:新しいソフトウェアを開発するプロジェクトを考えてみましょう。このソフトウェアは、既存の社内システムと連携する必要があります。この連携がスムーズに行われるように、事前に十分な検証とテストを行うことは、システムの相互作用を認識し、対応する例です。

06. リーダーシップを示す

プロジェクトマネージャーを含むチームメンバーは、状況に応じてリーダーシップを発揮することが求められます。リーダーシップとは、単に指示を出すことではなく、チームを鼓舞し、目標達成に向けて導く能力です。これには、ビジョンを示し、コミュニケーションを図り、意思決定を行い、問題を解決する能力が含まれます。

例:困難な状況に直面した際に、プロジェクトマネージャーが冷静に状況を分析し、チームメンバーを励ましながら解決策を見つけ出す行動は、リーダーシップの発揮と言えます。また、チームメンバーの成長を支援し、能力を最大限に引き出すことも重要なリーダーシップ行動です。

07. 状況に応じてテーラリングする

全てのプロジェクトは固有の特性を持っており、組織や環境もそれぞれ異なります。したがって、プロジェクトマネジメントのアプローチやプロセスは、画一的なものではなく、プロジェクトの状況や背景に合わせて適切に調整(テーラリング)する必要があります。

例:小規模でリスクの低いプロジェクトと、大規模で複雑なプロジェクトでは、必要な管理プロセスや文書の量、コミュニケーションの方法などが異なります。前者のプロジェクトでは、より簡潔なアプローチを採用することが適切なテーラリングと言えるでしょう。

08. プロセスと成果物に品質を組み込む

品質とは、要求事項を満たす度合いのことです。プロジェクトの初期段階から、品質を確保するためのプロセスを設計し、成果物にも品質を作り込むことが重要です。品質管理は、プロジェクトの全期間を通じて継続的に行われるべきです。

例:ソフトウェア開発プロジェクトであれば、コーディング規約を定め、レビュープロセスを導入し、テストを繰り返し行うことは、プロセスに品質を組み込むための活動です。これにより、欠陥の少ない高品質なソフトウェアを開発することができます。

09. 複雑さに対処する

現代のプロジェクトは、技術の進歩、グローバル化、多様なステークホルダーの関与などにより、複雑性を増しています。プロジェクトチームは、この複雑性を理解し、管理し、対処するための知識やスキル、そして適切なアプローチを採用する必要があります。

例:複数の国に拠点を置くチームが協力して行うグローバルプロジェクトでは、文化の違い、言語の障壁、時差など、多くの複雑な要素が存在します。これらの複雑性を軽減するために、定期的なオンライン会議や共通のコミュニケーションツールを活用することが有効です。

10. リスク対応を最適化する

リスクとは、プロジェクトの目標達成にプラスまたはマイナスの影響を与える可能性のある不確実な出来事や条件のことです。プロジェクトチームは、リスクを特定、分析、評価し、その影響を最小限に抑え、機会を最大限に活用するための対応策を計画し、実行する必要があります。

例:プロジェクトに必要な特定の部品のサプライヤーに依存している場合、そのサプライヤーの経営状況が悪化するリスクが考えられます。このリスクに対して、複数のサプライヤーを確保したり、代替部品の調達ルートを検討したりする対策を講じることが、リスク対応の最適化です。

11. 適応性と回復力を重視する

プロジェクトの進行中には、予期せぬ問題や変化が起こりうるものです。成功するプロジェクトチームは、これらの変化に柔軟に適応し、困難な状況から迅速に回復する能力(レジリエンス)を備えている必要があります。

例:プロジェクトの途中で、顧客の要求が大幅に変更された場合、計画を柔軟に見直し、変更に対応できるようにチームの体制やスケジュールを調整することが、適応性を示す例です。また、重大な問題が発生した場合でも、チームが落胆せずに原因を究明し、解決に向けて協力し合う姿勢は、回復力の表れと言えるでしょう。

12. 将来のあるべき姿を実現するために変革を可能にする

多くのプロジェクトは、組織や社会に変化をもたらすことを目的としています。プロジェクトチームは、この変化を円滑に進めるために、変更管理のプロセスを理解し、ステークホルダーの抵抗を軽減し、新しい状態への移行を支援する必要があります。

例:新しい業務プロセスを導入するプロジェクトでは、従業員へのトレーニングを実施したり、変更のメリットを丁寧に説明したりすることで、変更への理解と受け入れを促すことが、変更を可能にするための活動です。

まとめ

これらの12の原則は、「プロジェクトマネジメント標準」の根幹をなし、「PMBOK Guide」に記載されている8つのプロジェクトパフォーマンスドメインにおける活動を導く、普遍的で重要な規範となります。

次回は、これらの原則が、「PMBOK Guide」で解説される8つのプロジェクトパフォーマンスドメインとどのように関連しているのかを詳しく見ていきましょう。

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