第05回:「PMBOK ガイド」8つのパフォーマンスドメイン(1/5)

前回は「プロジェクトマネジメント標準」の根幹をなす12のプロジェクトマネジメント原則について、その概要と重要性をご説明しました。今回より数回に分けて「PMBOK ガイド」の重要な要素である「8つのプロジェクトパフォーマンスドメイン1」を掘り下げていきます。今回は、その中からプロジェクトの成功に不可欠な「ステークホルダー」と「チーム」の二つに焦点を当て、詳しく解説していきます。

1. ステークホルダー

1-1. ステークホルダーとは

プロジェクトにおけるステークホルダーとは、プロジェクトの意思決定、活動、または成果によって影響を受ける可能性のある個人、グループ、または組織のことです。また、プロジェクト、そのパフォーマンス、または成果に直接的または間接的に影響を与える可能性のある存在も含まれます。具体的には、以下のような人々や組織がステークホルダーとなり得ます:

  • プロジェクトマネージャー:プロジェクトを指揮し、目標達成に責任を持つ人物。
  • プロジェクトチームメンバー:実際にプロジェクトの作業を行う人々。
  • プロジェクトスポンサー:プロジェクトに必要な資金や資源を提供し、プロジェクトの成功を支援する責任者。
  • 顧客やエンドユーザー:プロジェクトの成果物を利用したり、その恩恵を受ける人々や組織。
  • 組織の経営層:プロジェクトの戦略的な方向性を決定し、承認を行う人々。
  • プロジェクトに影響を与える可能性のある外部組織:規制当局、地域社会、競合他社など。

1-2. ステークホルダーの重要性

ステークホルダー・パフォーマンスドメインは、プロジェクト全体を通じてステークホルダーとの効果的な関わり合いを確立し、維持することに焦点を当てています。ステークホルダーとの良好な関係は、プロジェクトの成功に不可欠であり、以下のようなメリットをもたらします:

  • プロジェクト目標への共通理解と合意:ステークホルダーのニーズや期待を把握し、共有することで、プロジェクトの目標に対する認識を一致させることができます。
  • 必要な支援と協力の獲得:プロジェクトの成功に必要な資源、情報、承認などを、ステークホルダーから円滑に得ることができます。
  • 潜在的な問題やリスクの早期発見と対応:ステークホルダーの懸念や反対意見を早期に把握し、適切な対策を講じることで、プロジェクトの遅延や失敗を防ぐことができます。
  • 顧客満足度の向上: 顧客やエンドユーザーのニーズを満たす成果物を deliveryすることで、満足度を高めることができます。

1-3. プロジェクトマネジメント標準との関連性

「プロジェクトマネジメント標準」の「ステークホルダーと適切に関わる」という原則は、まさにこのステークホルダー・パフォーマンスドメインの活動を導くものです。この原則は、ステークホルダーを積極的に関与させ、プロジェクトの成功と顧客満足に貢献するために必要な範囲で連携することを強調しています。

具体的には、以下の行動がこの原則に沿ったものと言えます:

  • プロジェクトの初期段階からステークホルダーを特定し、彼らのニーズや期待を理解する。
  • ステークホルダーに対して、プロジェクトの目的、進捗状況、課題などを適切にコミュニケーションする。
  • ステークホルダーの意見やフィードバックを積極的に求め、プロジェクトの意思決定に反映させる。
  • ステークホルダーとの間に信頼関係を築き、協力的な関係を維持する。
  • ステークホルダーの期待を管理し、必要に応じて調整を行う。

1-4. ステークホルダーとの効果的な関わり方

ステークホルダーと効果的に関わるためには、以下のような点に留意する必要があります:

  • コミュニケーション計画:誰に、何を、いつ、どのように伝えるかを計画し、実行します。プッシュ型(一方的な情報提供)、プル型(情報へのアクセス提供)、インタラクティブ型(双方向の対話)など、状況に応じたコミュニケーション方法を選択します。
  • 関係構築:個々のステークホルダーの個性や立場を理解し、良好な人間関係を築くことが重要です。
  • 期待管理:プロジェクトの制約や可能性を明確に伝え、現実的な期待を持ってもらうように努めます。
  • 問題解決:ステークホルダーからの懸念や不満には、迅速かつ適切に対応します。
  • 定期的なエンゲージメント:定期的な会議や報告会などを通じて、ステークホルダーとの継続的な対話を図ります。

2. チーム

2-1. プロジェクトチームとは

プロジェクトチームとは、プロジェクトの目標を達成するために作業を行う個人の集まりのことです。チームメンバーは、それぞれのスキルや専門知識を活かし、協力してプロジェクトの成果物を創り出します。

2-2. チームの重要性

チーム・パフォーマンスドメインは、高性能なプロジェクトチームを育成し、維持することに焦点を当てています。効果的なチームは、プロジェクトの効率を高め、質の高い成果物を deliveryするために不可欠です。

具体的には、高性能なチームは以下のような特徴を持ちます:

  • 共有されたオーナーシップ:チームメンバー全員がプロジェクトの目標を自分事として捉え、責任感を持って行動します。
  • 協力的な環境:互いに尊重し、信頼し合い、オープンなコミュニケーションを通じて協力して作業を進めます。
  • 多様なスキルと経験:様々な専門知識や経験を持つメンバーが集まることで、多角的な視点から問題解決に取り組むことができます。
  • 明確な役割と責任:各メンバーの役割と責任が明確に定義され、それぞれの担当範囲で最大限の能力を発揮します。
  • 継続的な学習と成長:チームとして、また個々のメンバーとして、常に新しい知識やスキルを習得し、成長し続けます。

2-3. プロジェクトマネジメント標準との関連性

「プロジェクトマネジメント標準」の「協調的なプロジェクトチーム環境を構築する」という原則は、このチーム・パフォーマンスドメインの活動を強く後押しします。この原則は、プロジェクトチームのメンバーが共有されたオーナーシップを持ち、協力的な環境で働くことを可能にするための重要性を強調しています。

具体的には、以下の要素がこの原則の実践に繋がります:

  • 協力と信頼の促進:チームメンバー間のオープンなコミュニケーション、相互尊重、心理的安全性を醸成します。
  • 共有された責任とアカウンタビリティ:プロジェクトの目標達成に対するチーム全体の責任を明確にし、個々の貢献を認識します。
  • 効果的なリーダーシップ:プロジェクトマネージャーは、チームを導き、サポートし、成長を促進するリーダーシップを発揮します。サーバントリーダーシップ(チームメンバーのニーズに応え、成長を支援するリーダーシップ)も重要です。
  • チームの育成と開発:チームのスキル向上、問題解決能力の強化、協力体制の構築などを支援します。タックマンモデル(形成期、混乱期、安定期、機能期、散会期)などのチーム開発モデルを理解することも役立ちます。
  • 多様性の尊重:異なるバックグラウンドやスキルを持つメンバーの多様性を活かし、チーム全体の能力を高めます。

2-4. 効果的なチームの構築と維持

効果的なチームを構築し、維持するためには、以下のような取り組みが重要です:

  • 明確な目標設定:チームが共通の目標を理解し、共有することが不可欠です。
  • 効果的なコミュニケーション:定期的な会議、進捗報告、フィードバックなどを通じて、チーム内の情報共有を円滑に行います。
  • 役割と責任の明確化:各メンバーの担当範囲と期待される成果を明確に定義します。
  • 相互尊重と信頼:チームメンバーがお互いを尊重し、信頼し合える関係を築きます。感情的知性(自己認識、自己管理、社会的認識、人間関係管理)を高めることも重要です。
  • 問題解決と意思決定:チームとして協力して問題解決に取り組み、透明性の高い意思決定プロセスを確立します。
  • 学習と成長の機会:研修、ワークショップ、経験の共有などを通じて、チームメンバーの能力開発を支援します。
  • チームのモチベーション維持:成果を認め、適切なフィードバックを行い、チームの士気を高めます。

まとめ

今回は「PMBOK ガイド」の8つのプロジェクトパフォーマンスドメインの中から、「ステークホルダー」と「チーム」の二つに焦点を当てて解説しました。ステークホルダーとの効果的な関わりはプロジェクトの成功の鍵であり、「プロジェクトマネジメント標準」の「ステークホルダーと適切に関わる」という原則がその重要性を示しています。また、高性能なプロジェクトチームはプロジェクトの中核であり、「協調的なプロジェクトチーム環境を構築する」という原則が、その育成と維持の重要性を強調しています。

次回の記事では、引き続き残りのパフォーマンスドメインについて詳しく解説していきます。

  1. ステークホルダー、チーム、開発アプローチとライフサイクル、計画、プロジェクト作業、デリバリー、測定、不確かさ

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