今回も前回に続き「PMBOK ガイド」の重要な要素である「8つのプロジェクトパフォーマンスドメイン1」を掘り下げていきます。今回は、プロジェクトを実際に動かし、目標を達成するために欠かせない二つの領域「プロジェクトワーク」と「計画」について詳しく解説していきます。
プロジェクトワーク
プロジェクトワーク・パフォーマンスドメインとは、その名の通り、プロジェクトの目標を達成するために実際に「作業を行う」領域です。例えるなら、建築プロジェクトで建物を実際に建設したり、ソフトウェア開発プロジェクトでプログラムコードを書いたりする活動そのものです。
この領域では、プロジェクトチームが協力して、計画された作業を実行し、必要な成果物を作り上げていきます。単に作業をするだけでなく、プロジェクトの進捗状況を管理したり、問題が発生した際に適切に対処したりすることも、このパフォーマンスドメインの重要な側面です。
具体的には、以下のような活動が含まれます。
- タスクの実行:プロジェクト計画に基づいて、個々のタスクや作業を進めていきます。
- コミュニケーション:プロジェクトチーム内はもちろん、ステークホルダー(プロジェクトに関わる全ての人々)と適切な情報を共有し、連携を図ります。
- 物理的リソースの管理:プロジェクトに必要な設備、資材、道具などを効率的に調達・管理し、作業がスムーズに進むようにします。
- 調達:外部の業者から必要な製品やサービスを調達するプロセスを管理します。契約の締結や納入の確認などが含まれます。
- 変更への対応:プロジェクトの進行中に、予期せぬ変更が発生することは珍しくありません。そのような変更を適切に管理し、計画への影響を最小限に抑えるための活動を行います。
ここで重要なのは「協調的なプロジェクトチーム環境を構築する」という「プロジェクトマネジメント標準」の原則 が、このプロジェクトワークの領域に深く関わっていることです。チームメンバーがお互いを尊重し、協力し合い、円滑なコミュニケーションを図ることで、プロジェクトの作業はより効率的に進み、質の高い成果物を生み出すことができるのです。
プロジェクトワークの成果は、定期的な進捗報告や成果物のレビューなどを通じて確認されます。これにより、プロジェクトが計画通りに進んでいるか、遅延や問題がないかを把握し、必要に応じて対策を講じることができます。
計画
次に「計画パフォーマンスドメイン」は、プロジェクトの目標を達成するための「道筋」を定める領域です。これは、プロジェクトを始める前に、何をすべきか、いつまでに、どのように行うのかなどを具体的に考える、非常に重要なプロセスです。
しっかりとした計画があることで、プロジェクトチームは迷うことなく作業を進めることができ、潜在的なリスクを事前に把握し、対策を立てることが可能になります。また、ステークホルダーに対して、プロジェクトの進捗や成果の見込みを明確に伝えるための基盤となります。
計画パフォーマンスドメインでは、以下のような活動が行われます。
- 目標設定:プロジェクトが達成すべき具体的な目標を明確にします。これには、何を作り出すのか(スコープ)、いつまでに完了するのか(スケジュール)、どれくらいの費用がかかるのか(コスト)などが含まれます。
- 作業の整理:プロジェクトの目標を達成するために必要な作業を細かく分解し、誰がどの作業を担当するのかを明確にします。
- スケジュールの作成:分解された作業を、いつ開始し、いつ完了するのかを時系列に並べ、実行可能なスケジュールを作成します。
- リソースの計画:プロジェクトに必要な人材、設備、資材などを洗い出し、いつ、どれだけの量が必要になるのかを計画します。
- コミュニケーション計画:プロジェクトに関わる人々との情報共有の方法や頻度などを計画します。
- リスク管理計画:プロジェクトの成功を妨げる可能性のあるリスクを特定し、それらが発生した場合の対応策を事前に検討します。
ここで注目すべきは「コンテキストに基づいて調整する」という「プロジェクトマネジメント標準」の原則 です。これは、プロジェクトの特性や置かれている状況(組織の文化、利用可能なリソース、ステークホルダーのニーズなど)に合わせて、計画の立て方や進め方を柔軟に変える必要があるという考え方です。例えば、規模の小さいプロジェクトと大規模なプロジェクトでは、計画に必要な詳細さや管理の方法が異なるのは当然と言えるでしょう。
計画の成果は、作成されたプロジェクト計画書や各種計画に基づいて確認されます。これらの計画が現実的であり、プロジェクトの目標達成に貢献できるものであるかを定期的に見直すことも重要です。
プロジェクトワークと計画の連携
「プロジェクトワーク」と「計画」は、プロジェクトの成功にとって、どちらも欠かすことのできない重要な要素です。
- 計画が、プロジェクトの方向性を示し、進むべき道筋を定める「羅針盤」であるならば、
- プロジェクトワークは、実際にその道を歩み、目標地点へと進んでいく「エンジン」と言えるでしょう。
どれほど完璧な計画を立てても、実際の作業が滞ってしまえばプロジェクトは前に進みません。逆に、いくら懸命に作業をしても、計画が不十分であれば、プロジェクトは目標を見失い、期待された成果を達成できない可能性があります。
したがって、プロジェクトマネージャーは、「計画」と「プロジェクトワーク」の両方をバランス良く管理し、それぞれの領域が効果的に機能するように努める必要があります。
プロジェクトマネジメント標準の原則との関連性
今回の二つのパフォーマンスドメインは、「プロジェクトマネジメント標準」で示される様々な原則と深く関連しています。
- 「コラボレーティブなプロジェクトチーム環境を構築する」原則は、プロジェクトワークにおけるチームの協力と円滑なコミュニケーションの重要性を強調します。
- 「コンテキストに基づいて調整する」原則は、計画を立てる際に、プロジェクトの状況に合わせて柔軟に対応することの必要性を示唆します。
- これらの原則を理解し、日々のプロジェクト活動に活かしていくことが、プロジェクトの成功へと繋がるのです。
まとめ
今回は、PMBOKガイド第7版の「8つのプロジェクトパフォーマンスドメイン」の中から、「プロジェクトワーク」と「計画」に焦点を当てて解説しました。
- プロジェクトワークは、計画を実行し、成果物を生み出す「行動」の領域です。
- 計画は、プロジェクトの目標達成に向けた「道筋」を示す、羅針盤となる領域です。
この二つのパフォーマンスドメインが効果的に連携することで、プロジェクトは着実に成功へと近づいていきます。
次回の記事では、引き続き残りのパフォーマンスドメインについて詳しく解説していきます。