今回も前回に続き「PMBOK ガイド」の重要な要素である「8つのプロジェクトパフォーマンスドメイン1」を掘り下げていきます。
今回は、残りの重要なパフォーマンスドメインである「開発アプローチとライフサイクル・パフォーマンスドメイン」と「不確実性パフォーマンスドメイン」に焦点を当て、プロジェクトにおける変化と予期せぬ事態への対応について深く掘り下げて解説します。
開発アプローチとライフサイクル
「開発アプローチとライフサイクル・パフォーマンスドメイン」 は、プロジェクトの成果物(製品、サービス、または結果)をどのように作り上げ、進化させていくかに焦点を当てた領域です。プロジェクトの特性や状況に合わせて、適切な開発の進め方(開発アプローチ) を選び、プロジェクト全体の道のりを示す ライフサイクル を管理することが重要となります。
このパフォーマンスドメインでは、以下のような側面が考慮されます。
- 開発、ケイデンス、ライフサイクルの関係性:プロジェクトの成果物の種類によって、最適な開発方法が決まります。そして、どのような頻度で成果物を届けるか(デリバリーケイデンス)と開発方法が、プロジェクト全体の期間と段階(ライフサイクル)を決定します。
- 様々な開発アプローチ:プロジェクトの進め方には様々な種類があります。
- 予測型アプローチ:計画を最初にしっかりと立て、その計画に基づいて段階的に作業を進める方法です。スコープ(何をすべきか)が明確で、変更が少ない場合に適しています。例えるなら、建築物の設計図を最初に全て決めてから建設を始めるようなものです。
- ハイブリッド型アプローチ:予測型と適応型のアプローチの良いところを組み合わせた方法です。プロジェクトの一部分には詳細な計画を立て、別の部分には柔軟性を持たせるといった使い方ができます。
- 適応型アプローチ:スコープが流動的で、頻繁な変更が予想される場合に適した、柔軟な進め方です。短い期間で成果物を繰り返し作り、その都度フィードバックを得て次の開発に活かします。アジャイル開発などがこの代表例で、ソフトウェア開発などでよく用いられます。
- 開発アプローチ選択の考慮事項:どの開発アプローチを選ぶかは、成果物自体の性質、プロジェクトの特性、そして組織の状況など、様々な要因によって左右されます。例えば、要求事項が安定しているか、変更が容易に対応できるかなどが判断のポイントとなります。
- 代表的なライフサイクルモデル:プロジェクトの開始から完了までの段階的な流れを示すものです。予測型ライフサイクルでは、 feasibility(実現可能性調査)、設計、構築、テスト、展開、終結といった段階を踏みます。適応型ライフサイクルでは、短いイテレーション(反復)を何度も繰り返しながら成果物を開発していきます。
- デリバリーケイデンス、開発アプローチ、ライフサイクルの整合性:プロジェクトの価値を早期に届け、ビジネス上のメリットを最大限に引き出すためには、成果物をいつ、どのくらいの頻度で届けるかという「デリバリーケイデンス」が重要です。これは、選択した「開発アプローチ」と「ライフサイクル」と整合している必要があります。
- 他のパフォーマンスドメインとの相互作用:このパフォーマンスドメインは、特に「デリバリー・パフォーマンスドメイン」と密接に関連しています。デリバリーの頻度や開発方法は、成果物の要求事項や品質に大きく影響を与えるためです。
- 「プロジェクトマネジメント標準」の原則との関連性:このパフォーマンスドメインは、特に 「コンテキストに基づいて調整する」 という原則と強く結びついています。プロジェクトの状況に合わせて、最適な開発アプローチとライフサイクルを選択し、適用することが求められるためです。
不確実性
「不確実性パフォーマンスドメイン」 は、プロジェクトのパフォーマンスに影響を与える可能性のある、予期しない出来事や状況に対応することに焦点を当てた領域です。プロジェクトを取り巻く不確実性を理解し、適切に対応することで、プロジェクトの成功の可能性を高めることができます。
このパフォーマンスドメインでは、以下のような側面が重要となります。
- プロジェクトを取り巻く環境の認識:プロジェクトは、技術的な側面だけでなく、社会、政治、市場、経済など、様々な環境の影響を受けます。これらの環境を理解し、何がプロジェクトに影響を与える可能性があるかを常に意識することが重要です。
- 不確実性の種類:不確実性には様々な形があります。例えば、曖昧さ(何が起こるか、またはその意味が不明確な状態)や、複雑性(多くの要素が相互に関連し、予測が困難な状態)などがあります。
- リスクへの対応:リスクとは、プロジェクトの目標達成を阻害する可能性のある予期せぬ出来事のことです。リスクを特定し、分析し、その影響を軽減または回避するための対応策(リスク対応戦略)を計画・実行します。
- 予備(リザーブ):予期せぬ事態に対応するために、時間や予算の予備(コンティンジェンシーリザーブ、マネジメントリザーブ) を設定することがあります。コンティンジェンシーリザーブは特定されたリスクに対応するために、マネジメントリザーブは予期せぬ作業に対応するために用いられます。
- 他のパフォーマンスドメインとの相互作用:不確実性はプロジェクトのあらゆる側面に影響を与えるため、他のすべてのパフォーマンスドメインと相互作用します。例えば、測定されたパフォーマンスに基づいて新たなリスクが明らかになることもあります。
- 「プロジェクトマネジメント標準」の原則との関連性:このパフォーマンスドメインは、特に 「リスク対応を最適化する」 と 「適応性とレジリエンスを重視する」 という原則と深く関連しています。リスクを適切に管理し、予期せぬ事態にも柔軟に対応できる能力が、プロジェクトの成功には不可欠だからです。
二つのパフォーマンスドメインの相互関係
「開発アプローチとライフサイクル」と「不確実性」の二つのパフォーマンスドメインは、プロジェクトが変化に強く、不確実な状況下でも目標を達成するために密接に連携しています。
- 適切な開発アプローチとライフサイクルを選択することで、プロジェクトは変化に柔軟に対応できる基盤を築きます。例えば、適応型アプローチでは、頻繁なフィードバックを取り入れながら進めるため、途中で要求事項が変更されても比較的容易に対応できます。
- 不確実性への対応を計画的に行うことで、予期せぬリスクが発生した場合でも、プロジェクトの遅延や失敗を最小限に抑えることができます。リスク対応策や予備の設定は、プロジェクトの回復力(レジリエンス)を高めます。
- プロジェクトを取り巻く環境の変化や新たなリスクの出現は、開発アプローチやライフサイクルの見直しを促すことがあります。逆に、開発の進捗状況や成果物に対するフィードバックは、潜在的なリスクを早期に発見する手がかりとなることがあります。
プロジェクトマネジメント標準の原則との関連性
今回の二つのパフォーマンスドメインは、以下の「プロジェクトマネジメント標準」の原則を具体的に実践する上で非常に重要です。
- コンテキストに基づいて調整する:プロジェクトの特性、組織の文化、そして取り巻く環境を理解し、最適な開発アプローチとライフサイクルを適用することが求められます。
- リスク対応を最適化する:潜在的なリスクを特定し、評価し、適切な対応策を講じることで、プロジェクトの成功の可能性を高めます。
- 適応性とレジリエンスを重視する:変化を避けられないものとして捉え、それに柔軟に対応し、困難な状況から回復する能力を持つことが重要です。
これらの原則を意識し、それぞれのパフォーマンスドメインの活動を効果的に行うことで、プロジェクトは変化の激しい現代においても、着実に目標を達成し、価値を提供し続けることができるでしょう。
まとめ
今回は、PMBOKガイド第7版の「8つのプロジェクトパフォーマンスドメイン」の中から、「開発アプローチとライフサイクル」と「不確実性」に焦点を当てて解説しました。
- 開発アプローチとライフサイクル・パフォーマンスドメイン は、プロジェクトの進め方を計画し、管理するための領域です。
- 不確実性パフォーマンスドメイン は、予期せぬ事態に対応し、プロジェクトの成功を守るための領域です。
これら二つのパフォーマンスドメインを深く理解し、関連する原則を意識することで、プロジェクトは変化と不確実性に対応する力を高め、成功へと導かれるでしょう。