1-1. 横浜の夜の街から

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僕は横浜の伊勢佐木町界隈でホステスの母とタクシー運転手の父の間に生まれました。母は僕がお腹にいるころにホステスを引退します。古い2DKの木造アパートに父、母、僕の家族3人で暮らしていました。

母には「理想の男」のイメージが強くあり僕をそれに近づけたかったようです。僕が3歳でひらがなの読み書きができるようになるとすぐ、母はピアノ、習字、公文を僕に習わせました。

妹が産まれるころ、父はなかなか家に帰らずお金を家に持って来なくなっていました。家庭はまともな食事ができないほど貧乏になり、幼稚園の給食のない週末には僕はいつもお腹を空かせていました。父は外で借金もしており、ガラの悪い人が度々ドアを叩いて集金にやってきました。

習い事は結局、1年も続けられませんでした。それでも、このときに習った「音楽」、「文字を書くこと」、「計算」は、後々にまで僕の人生に大きな影響を与えました。

極貧状態に陥ったため、母はホステスの仕事を再開します。母が勤めに出いている夜の間、母を求めて泣き叫ぶ幼い妹を、僕は独りで面倒みなければなりませんでした。

僕が小学校に上がるころに両親は離婚します。父の悪態については母から散々聞かされていたため、僕は心の底から母が不幸で可哀そうだと思いました。離婚をするだけで、何の金銭的な責任も果たさず、支援もしない父親を本当に卑怯だと思いました。

離婚してすぐ、二重顎で白髪のS氏を母は家に連れてきました。彼は損保会社の部長で、母の店の客でした。S氏とは家族ぐるみで買い物や旅行に行きました。僕は子どもながらにその人と仲良くしないといけないと感じ、意識的に可愛がられるよう振舞いました。

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